033 よみもの 『文壇意外史』 森 敦著
出典:朝日新聞 昭和49年12月16日(月)
 六十一歳で芥川賞作家となった作者の放浪記であり、はばひろい交友録でもある。二十三章にわかれているが、どこから読み出してもいい。作者が京城中学出身ということから、朝鮮に関係のある作家の古山高麗雄、日野啓三などについて述べているかと思えば、東大生の檀一雄と評論家河上徹太郎の邸宅をおそい、遊ぶためのカネをもらったという四十年も前の、古きよき時代を楽しく語っている。「川端康成は立ち小便の名人なり」と書いた横光利一の一文が川端の見合いの相手方の目にとまり婚約が流れてしまった話など、思わずふき出すようなエピソードもある。文壇側面史としても面白い。
(朝日新聞社・八五〇円)
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